真山知幸ジャーナル

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格差なき病、それは梅毒

『〇〇の世界史』というタイトルの本もいささか食傷気味ですが、『性病の世界史』は面白いです。草思社が2003年に発行した『王様も文豪もみな苦しんだ性病の世界史』という本が、2016年2月に文庫化されたもの。

 

文庫 性病の世界史 (草思社文庫)

著者は1971年、ドイツに生まれたピルギット・アダムという作家で、女性なんですね。中世の浴場や村の男女が集まる紡ぎ部屋、そして、協会の懺悔室までも、男女の欲がうずまいており、性病の温床になっていた……。そんな中世ヨーロッパの乱れっぷりを、冷静な筆致で綴っています。

性病は身分の差に関係なく、農民から王までを苦しめました。著者はこんなふうに書いています。

「梅毒は上下のへだてなく万人平等に感染するデモクラティックな病気であった。この病気は兵士や流れ者や娼婦といった、いわば社会の底辺だけに猛威をふるったのではなく、やがて社会の最上層にまで巣食うようになったのである」

宮廷病=梅毒、そんな時代だったとか。そして、芸術家や文豪も、また梅毒に苦しみました。ボードレール、ベートベン、ハイネ、シューベルトオスカー・ワイルドなど。もちろん、これは一部ですよ。

翻訳家の瀬野文教さんの訳が、非常に読みやすい。翻訳本は訳次第で大きく変わるので、訳者から本を選ぶのもいいかもしれません。性病の窓から、ヨーロッパをのぞいてみれば、という恐ろしくも刺激的な本です。