真山知幸ジャーナル

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ドラマ化希望の上京漫画『トーキョー無職日記』『トーキョー自立日記』(トリバタケ ハルノブ)

トーキョー無職日記

タイトルから暗い漫画を想像するかもしれない。主人公のハルオは、23歳の無職。大学からドロップアウトして、半ば強引に上京してみたところで、何も状況は変わらないというところから物語は始まる。

こう書くと、確かに暗そうだ。しかし、この漫画はホームレスの姿に自分を重ねるほどの暗闇にいたハルオが、インターネットを通じての出会いで、東京での居場所を見つけ、かつての夢だった漫画家、イラストレーターの道へと邁進していくという、いたって前向きな展開だ。

「人は一人では何も出来ない」ということ。人とのつながりによって、ハルオを取り巻く状況がどんどん変わっていくところが、リアルであり、同じ上京組として、とても共感できた。

だけど「結局、最後は自分次第」ということも、この作品ではよく描かれている。ハルオは人との出会いによって、成長するきっかけやチャレンジする環境を手に入れていく。しかし、そこから「やっぱり自分には無理だ」と徹底するのも自分だし、奮起して身の程知らずな目標に向かって邁進するのもまた自分である。後者でありたいのは当然だが、現実的には、前者のようにへこたれてしまうほうが圧倒的に多いように思う。でも、やっぱり自分の中で諦められないものが、進むべき道なのだろう。

この漫画を読んだ読者には「ハルオが順調すぎる」という声もあるようだ。実際、友人にもそういう感想はあった。「ハルオはなんだかんだで明るくて人付き合いがうまいから、ちょっと……」。でもどうだろうな。結構ハルオは、うじうじ、一進一退して奮闘しているように思ったけど。そのあたりは人によって受け止め方が変わるところかもしれない。でも僕は、この作者の「そんなに悪いことばかりではない」という世の中の描き方はとても好きだ。

トーキョー自立日記

続編の「トーキョー自立日記」。こちらは、ハルオの恋愛話も入ってきて、バイトと夢の両立もはかどってきていて、無職日記より明るいように、一読すると思うかもしれない。でも、僕は意外と、無職日記よりも自立日記のようが、重い作品のように思った。前作は停滞しているようでだんだんと状況が上向く話。続編はどんどん状況が好転しているようで、結局は大きく状況は変わらない話、といえばざっくりしすぎであろうか。でも、そのなかでも希望があって、ハルオは少しずつ、自分のことを好きになり、人生を前進させていく。そして、ささやかなハッピーエンド。最後まで自分好みの作品だった。

とグダグダ書いたが、4コマの連作で、気軽に楽しく読める作品だ。自立日記のハルオの恋愛のところは、最高です。しょっぱくて、すばらしいんです。ハルオが好きな女の子には彼氏がいて、その彼氏がどんなやつか、彼女の友達に探りを入れるシーン。

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そ、そら、こんな顔にもなる!その後、ハルオは「巨人の4番とつきあっていると言われたようなものだ」という名言を吐きながら、ヨロヨロと家に帰ります。ハルオの恋はどうなるのか? ここ、一番好きかもしれない(冒頭でいろいろ論じていたのは何だったんだ)。

これは、ドラマ化するといいと思うんだけどなあ。

主題歌はELTの「ソラアイ」がぴったりだな。古いか。

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移り変わってゆく季節があって

僕も少しは変われたかな

何かを見つけられたかな

この空のむこうにある光のように

晴れるわけでもない空を

それでも僕は今日を期待して生きてみる

(Every Little Thing「ソラアイ」)

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