真山知幸ジャーナル

告知、執筆活動の記録のほか、書評、名言、偉人についてなど

西村賢太の描く小説があまりに酷い

小銭をかぞえる (文春文庫)

酷い。あまりに酷い。

なんなんだ、この主人公は一体・・・。

金にはだらしない、空気が読めずに口が悪い、

女性の扱いもめちゃくちゃ、友人と呼べるような人もいない、

立場が弱いときはこびへつらい、その必要がなくなると、

逆ギレして、罵詈雑言を浴びせる・・・。

絶対にかかわりたくない人種。

「困った人を助けなさい」、そんな教えを果たして、

子どもにしていいのか迷うレベルである。

こいつは助けたら最後で、ますます図に乗り、

要求が増えるからだ。

懲りるということも、全くない。

学習能力ゼロである。

だが、これが、どうしようもなく

面白いんだよなあ。

前に紹介した『二度はゆけぬ町の地図』も

気づけば何度も読み返している。

本作もおそらくそうなるのだろう。

この人間として最低なこの男の物語を

もっと読みたいと思うのはなぜだろう。

それはおそらく、自分の中に

小さな西村賢太がいるからだ。

ミスを取り繕ったとき、

セコいことをこっそりやったとき、

自分の都合を優先させたとき、

おそらく自分はこの主人公に

似たところがあったのではないか?

そう思うからだろう。

魅力的な主人公に決め台詞があるように、

この最低最悪の主人公には

罵詈雑言の捨て台詞がある。

それが、また凄いんだ。

引用はとてもできないが、

「終わってんなー、コイツ!」と思わず笑ってしまう、

あの感覚はなかなか他の小説では

味わえないかもしれない。