真山知幸ジャーナル

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どれだけ振り回されても、離れがたい人はいる?(桂望実の『嫌な女』で読み説く幸福論)

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周囲を振り回してばかりの人が、世の中にはいる。他人の迷惑も顧みずに、己の欲望に忠実に生きるワガママな人のことだ。

できれば、お近づきになりたくないが、実のところ、偉人のなかにもそういう人は少なくない。野口英世マルクスも、周囲を引きずり回すパワーに満ちていた。いつもその傍らにいる人は、「勘弁してくれ」と思いながら、気づけば手を貸してしまう。

桂望実の『嫌な女』では、そんな女が主人公だ。男を翻弄して、その気にさせては金を巻き上げる詐欺師、小谷夏子。トラブルを次々と起こしては周囲を怒らせて疲弊させるが、なんとかなってしまうのが、夏子なのである。

その解決に、手を貸すのが遠縁の弁護士・石田徹子だ。夏子とは性格も対照的な徹子は、腐れ縁に振り回されて、夏子が起こした恋愛トラブルを解決するために、東奔西走させられる。だが、そんな徹子もまた、夏子の吸引力に引き寄せられた一人なのだ。

 

同じようなパターンが繰り返されるので、後半は退屈してしまったが、それでも本書がスゴイのは、夏子と徹子の半生を描いてしまっていることだ。徹子は登場時には24歳だが、最終的には71歳。当然、夏子も同じだけ年をとっているのだが、やることは全く変わらない。男をだまして、金を巻き上げる。だけども、男たちは夏子と会えてよかったと思っている。そして、また夏子は確かに憎めない人間臭さがある。ただの狡猾な詐欺師とは違う、人間的な魅力に読者もまた応援したくなってくるのだから、不思議だ。

徹子にとっての夏子のように、いつも振り回されているのに、離れがたい人があなたにはいるだろうか? パワーに圧倒されながらも、自分をここではないどこかへ連れ行ってくれそうな人が。

 

いるならば、それは、お互いに強く必要としている関係なのかもしれない。

嫌な女 (光文社文庫)