『十二の肖像画による十二の物語』(辻井邦夫/PHP研究所)
ある空間のある時間が切り取られた絵画から、
あれやこれやと想像するのはいかにも楽しい。
観賞する人によって、絵画の観方も千差万別である。
肖像画から想像の羽を伸ばした。
本書は、12枚の肖像画それぞれに、
短編小説をあてがったもの。
文藝春秋から1981年に出版されたものが、
2015年に復刊される運びとなった。
『鬱ぎ(ふさぎ)』、『妬み(ねたみ)』、『怖れ(おそれ)』
『疑い(うたがい)』、『傲り(おごり)』、『偽り(いつわり)』…・・・など、
人間誰しもが持つ感情を、肖像画と小説で描き出している。
例えは『鬱ぎ』では、か弱い小動物に感情が動かされたヨハネスが、
動物が成長するにつれて、愛情を失い、むしろ邪魔な存在にすらなっていくという
身勝手な感情が描かれている。
ふさぐのはヨハネスだが、動物にとってもたまったものではないだろう。
か弱きものは、弱きものがゆえに愛されるが、
大事にされて育っていくに連れて、その愛情が注がれなくなっていくという
ジレンマを抱えることになる。
紡がれた物語は、絵の解説などではなく、それどころか、
まるで絵画作品が小説の挿絵のようにさえ感じてしまう。
十二の肖像画による十二の物語 (2015/01/23) 辻 邦生 商品詳細を見る |
表紙はポライウォーロの『婦人の肖像』。
美しい絵画と美しい文章にひたれる一冊。