真山知幸ジャーナル

告知、執筆活動の記録のほか、書評、名言、偉人についてなど

鉄道の達人たちの会話

ブルータスへの執筆が一段落。

ここからは確定申告モードにならねばならぬ。

執筆の資料として、年末から年始にかけて、

紀行文学や旅行記をむさぼり読んでいた。

すっかりブログも滞ってしまったが、

鉄道の達人たちの会話を紹介しておきたい。

なんだか、すごすぎるのだ。

宮脇俊三は、言わずと知れた

鉄道紀行作家の大御所である。

国鉄全線に乗車した『時刻表2万キロ』で

日本ノンフィクション賞を受賞している。

圧巻なのは昭和58年の『最長片道切符の旅』だ。

これは、北海道・広尾から鹿児島・枕崎まで、

「最も遠回りになるルート」を計算し、

同じ駅を通ることなく「一筆書き切符」で

旅をするというもの。

なぜ、そんなことをする必要があるのか。

それは、そこに鉄道があるから――なのだろう。

(余談だが、登山家・マロリーの

有名な言葉「そこに山があるから」は

誇張された名言である。)

宮脇は、『最長片道切符の旅』に出る前に

種村直樹に相談している。

種村は自身をレイルウェイ・ライターと名乗り、

鉄道の記事を専門に書きまくる著述家だ。

宮脇と種村。

まさに達人と達人の会話が、

以下である。

私は種村直樹さんに訪ねてみようと思った。種村さんは『鉄道旅行術』(昭和五十二年、日本交通公社刊)の著者で一度お会いしたいと思っていた人であった。

「じつは」と言って私は自分の計画を話した。学生ならともかく、いい齢をした男が児戯に類した目的を持っていることに驚いたのか、種村さんは、

「ほう、それはそれは」

と言いながら、椅子ごと体をせり出してきた。私は医者と向かい合った患者のような気持になった。

「新松戸―西船橋間が開通しても最長ルートに変更はないようですが……」

と私は言った。

「いや、変わりますよ」

と種村さんは即座に答えた。そして奥の部屋から一枚の紙片を持ってこられた。

それはやはり光畑さんの計算書であった。新松戸―西船橋間を利用することによって東京近郊区間のルートが全面的に変り、従来より6.5キロ長くなることが見事に証明されていた。

即座に答えた、というところにしびれる。

「私は医者と向かい合った患者のような気持になった」の箇所も

宮脇の種村へのレスペクトを感じて、心地よい。

「やはり光畑さんの計算書であった」というのは

東京鉄道病院の眼科医・光畑茂のことで、

彼もまた最長ルートを計算してすでに発表済であった。

宮脇はそれを「先人の業績」と表現している。

どんな分野であれ、物事を極めた者だけが

見える風景というものがある。

私にもいつかそれが見えるのだろうか。

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 宮脇俊三さんの『インド鉄道紀行』『シベリア鉄道9400キロ』が滅法面白かったので、他のも読んでみたいと思い、こないだ図書館に行って氏の本を何冊か借りてきました。今は『時刻表2万キロ』を読んでますが、これも面白い!「日本全国鉄道路線乗り潰し」などという、すっげぇぇぇマニアックな内容だけど… 真似しようとは到底思えないくらいのディープな乗り鉄っぷりだけど、でも面白い!列車で旅行したい

著者は普段鉄道旅行記を書いているからこの本は異色である。この本はミステリー小説なのだ。しかも普通のミステリーではない。著者の今までの旅の経験や地理の知識を動員して書かれている。必ずしも人の死ぬところが生々しく書かれているわけでもない。死んだんだかそうでないんだかわからない終わり方もある。著者は後書きで「自然への怖れを短編ミステリーの形で描いてみたいと冒険を試みた。」というように、このミステリーは自...

殺意の風景 宮脇俊三 新潮社